8/22/2013

着付師 根津昌平「きもの語り」からの気づき 1

2ヶ月ほど前の6月にアメリカで世界有数に入る資産家のご夫婦から着物スタイリストとしての仕事のご依頼がありました。あるパーティーに出席する時に夫婦そろって着物を御召しになりたいとのことでした。
パーティーの主旨にそった着物選びから任されました。

着物の試着のため、数着ほど着物や帯を持参でご依頼の方の家に伺いました。
うかがうと、奥様がパーティーに着物を着ることを迷われていました。「暑いのは避けたい。帯は苦しいし、幅が広いとクールではない」と試着前から言われてしまいました。アメリカで着物の仕事をしていて、残念なことに着物のイメージに「苦しい、重い、暑い(もしくは寒い)」と言う人は少なくないです。暑い寒いは、着物には季節感が無いように思われているのだと思います。四季の季節に適した生地(素材)は数多にもわたり、柄にしても季節感を表現しているものこそ着物なのですが、季節感が着物の中で伝わっていない点はいつも残念に思います。

パーティー当日、ご夫婦そろって着物を御召しになり、その仕事が無事終わりました。その仕事の後に、根津昌平「着付師一代 - きもの語り」(聞き書き:岡田喜一郎)の本を読み直したくなりました。上の写真は、その本の表紙です。
私が着付師としてとても尊敬している根津昌平さん。正確に言うと、着付け師というより衣裳付けでしょうか(衣裳付けとは、お芝居の世界での言葉で、役者の役柄や体形にあった衣裳を選び、合わせ、着付けをします)。

その本の序幕には「俳優に信頼されて一人前」と書いてありました。
今回のご依頼のご夫婦は世界に名高いセレブリティーで俳優ではありませんが、着物選びから任されることの信頼を得てこそ着物スタイリストなのだと思うところがあって、衣裳付けに似た立ち位置を感じました。ご依頼のご夫婦の着物を着て行く場面に適した装いから好みに合った着物を提案し、その人たちらしい着こなしの着付けをするまでトータルでコーディネートをしてみるとストーリーが存在しているかのようにも思います。私が目指す着物スタイリストの仕事は、ストーリーが存在している衣裳付けのようにありたいと思っていたことに気がつきました。

その衣裳付けという仕事ですが、根津さんが言う衣裳付けの仕事とは、「美しく着せること。苦しくないように着せること。着崩れしないように着せること」と本に書かれていました。
前に笹島寿美先生に時代衣裳の着付けを直接ご指導をいただいた時に、「苦しい着付けは逆に着崩れる。無駄な負荷がかかっている」と科学的な言葉をいただき、私の中で大きな気づきがありました。
苦しくない着付けというのが、緩い着付けで着崩れするのではないのかと不安に思う方は多いと思いますが、笹島先生の言葉は「苦しくない着付け」と「緩い着付け」とは天と地ほど違うようにも聞き取れました。

今までお客様から言われた言葉で嬉しかったのは、「着物って苦しかった思い出しかなかったけど、そうでもないのね。1日着ていたけど、着崩れもしないし、楽だった。」この一言は、本当に嬉しかったです。
苦しくない着付けや、気候に応じた季節感のある“着物”や“装い”これらをアメリカで先ずはイメージしていただけるような着物の提案をすることが必要であるように思いました。

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